「ブックマン」第13回「満洲国」に関する3冊のおすすめ

『銀幕に愛をこめてぼくはゴジラの同期生』  宝田明の語り  ちくま文庫
『日本人が夢見た満洲という幻影』    船尾修 写真・文 新日本出版社
『消えた帝国 満州の100人』    太平洋戦争研究会著  ビジネス社

 9月18日は、92年前の1931(昭和6)年に勃発した満州事変の日です。当時の日本帝国は、この日から1945(昭和20)年にポツダム宣言を受諾して無条件降伏するまで15年戦争の時代に入っていきます。1932年、日本の傀儡国家として満州国の建国宣言が発表されます。満州という地名は現在ありません。あえて言えば現在の中華人民共和国の東北部にあたる遼寧省、吉林省、黒竜江省付近を指すようです。「五族協和」「王道楽土」のスローガンのもとに、満州国は「産業開発5か年計画」を急ピッチに進め、太平洋戦争時の補給基地の役割を果たしました。しかし、日本帝国の敗北とともに満州国も13年の短い命運が終焉しました。今回は、この満州国にかかわる3冊のおすすめをします。
 第1冊目は、『銀幕に愛をこめてぼくはゴジラの同期生』の俳優の宝田明さんの生涯です。宝田さんの父は南満洲鉄道(満鉄)の社員として満州へ渡りハルピンで一家は住みます。エリート社員として恵まれた生活を送りますが、旧ソ連軍の参戦、侵攻により一変します。宝田さん自身も、乱入してきたソ連兵に銃で撃たれ、脇腹を負傷しますが九死に一生を得て日本に引揚げてきました。宝田さんは、昨年の3月に87歳で亡くなりましたが、日頃から戦争に対する怒りをあらゆる場で訴えておられました。銀幕の宝田さんしか知らない私は、もっと語り部として活動をしていただきたかったと思います。
 第2冊目の『日本人が夢見た満洲という幻影』は、日本の約3倍の面積を持つ「旧満洲国」のほぼ全域に足を延ばし、400か所ほどの残存建築物を取材した写真紀行です。現在も使われている当時の「建築物が睥睨する様に圧倒され」ます。
 第3冊目の『消えた帝国 満州の100人』は、満洲国の建国から終焉までを、コンパクトにまとめた通史です。特に満洲に関わった100名の人物の描写に興味がひかれます。例えば、関東大震災直後に無政府主義者の大杉栄氏を虐殺したといわれる首謀者の甘粕正彦氏は、満映の理事長のポストについていました。日本が敗北した時に、青酸カリで自殺しました。戦争の時代の不条理を思わないわけにはおられません。

(文責:代表理事 五百木孝行)

9月 18, 2023