「ブックマン」第10回 小説『ちとせ』鮮烈な少女の成長

高野知宙著  祥伝社

明治5年の京の街を舞台にした疱瘡を患った14歳の少女の人間としての成長に鋭い感性で迫る青春小説だと思います。作者も彗星のごとく現れた17歳の高校生。私は少なくともそう思いましたが、何と第3回京都文学書受賞作(中高生部門)で、ふたば書店で何となく惹かれて手に取って購入。疱瘡で視力を失う主人公のちとせが、丹後から祇園の元芸者のお菊の家に住み込み、三味線の芸に打ち込んでいきます。三条大橋の下の河原で三味線の練習を通じて、車屋の跡取り息子の藤之助、邏卒の稔、橋の下の住民のツバメらとの甘酸っぱい恋心も秘めた交流が描かれます。一つ一つの描写が鮮烈でキリキリした心理描写。胃や胸に静電気が走るような描き方は、高校生とは思われません。天皇が東京に移り、寂れた京都に活気を取戻すために西本願寺や知恩院を中心に「博覧会」が開かれている京都を舞台に、若者たちの若い息遣いが伝わってきます。引き込まれます。次回作に期待したいです。

(文責:代表理事 五百木孝行)

5月 2, 2023