「ブックマン」第9回 ゴールの見えない消耗戦  

 『後期日中戦争~太平洋戦争下の中国戦線』
  広中一成著  角川新書

 9月18日は、満州事変が起こった日です。今から90年前の1931(昭和6)年の大事件です。それ以降、当時の大日本帝国は、太平洋戦争への道を歩むことになります。そのプロセスについては、「ブックマン」第8回「太平洋戦争への道1931—1941」で紹介していますので、それをお読みください。昭和の戦争のテーマが続きますが、現在の政治社会状況が当時とよく似ており、とても大切なテーマなので新刊書や良書があれば繰り返し取り上げ紹介して行きたいと思います。

 今回紹介する本書は、1941年に太平洋戦争が起こった以降の、いわゆる「後期日中戦争」について、これまで太平洋戦争の陰に隠れて、中国戦線の実相はあまり明らかにされてきませんでした。そのことに焦点を当てたのが本書の目的です。
太平洋戦争に引きずりこまされた中国戦線は、「国民政府のある中央奥地の重慶訪問へ進むよりも、南方戦線に近い中国南部から西南部方面へと広がった。まさに日中戦争はゴールの見えない果てなき戦いとなった」(259p—260p)。戦争末期の作戦は、太平洋戦線の展開に大きく影響を受けながら立案、実施された。例えば日本本土空襲を阻止するための敵飛行場の占領である。しかし、その時はもっと奥地からB29が本土を襲っていた。名古屋に師団本部をおく第三師団は、1939年から終戦までの6年間、後期日中戦争に従軍しました。本書は、この第三師団の転戦の軌跡を追いながら、後期日中戦争の作戦内容を明らかにしています。戦争末期では兵員や装備も不十分。また虐殺戦、細菌戦や毒ガス戦などにも触れています。まさしく目的なき泥沼の戦いになっていきます。日本軍は、終戦まで約80万人以上の日本兵が中国戦線にくぎ付けにされていました。これでは、圧倒的な戦力を保持するアメリカ軍に、日本軍は勝つことはできません。
 日本人は、日中戦争の実相を知らない現状あります。特に、反中国意識が増加している世論の中で、正しい歴史認識を持つことは大切です。

(文責:代表理事 五百木孝行)

9月 18, 2021