「ブックマン」第8回 戦争指導者とメディアの責任 

『太平洋戦争への道1931—1941』
   半藤一利・加藤陽子・保阪正康編著 NHK出版新書

本書は、今年1月に亡くなった半藤一利さん、日本学術会議委員を任命拒否された加藤陽子さん、ノンフィクション作家の保阪正康さんの3人が、2017年の終戦の日にNHKラジオで鼎談した内容を編集したものです。日本とアメリカのGDP比が10倍、石油の備蓄量が700倍という資源差において、なぜ当時の大本営指導部は無謀な戦争に突入したのか。立ち止まり、踏みとどまることはできなかったのか。本書は6つの転換点を検証し、令和日本の私たちに提言しています。

まず戦争への第一段階は、1931(昭和6)年の満州事変を関東軍の謀略によって引き起したにもかかわらず、このことを中国軍が起こしたものと発表し、関東軍や朝鮮駐屯軍は軍事行動を起こします。翌年には満州国という傀儡国家を成立させます。その後、満州は日本の「生命線」とされ、新聞、ラジオのメディアはキャンペーンを張り、国民の熱狂的な支持を作っていきます。しかし、関東軍の謀略であったことは、日本が太平洋戦争で敗北するまでは明らかにされませんでした。現在のマスコミの忖度報道を彷彿させます。あと、➁国際協調の放棄、➂言論・思想の統制、④中国侵攻の拡大、⑤三国同盟の締結、⑥日米交渉の失敗と続き、昭和日本が犯した「最大の失敗」の暴走となりました。

「アメリカ側は日本を適当にあやしながら、軍事行動への道に誘いをかけてきた」(本書209P)。その時、日本の指導部は、戦略や戦術面だけではなく、総合的にものを考え、戦争を回避するという選択も考える必要があった。しかし、当時の東条内閣は、現役軍人でほとんど構成されており、軍事の思考回路で政治的に捉えることができなかった。この結果が、政府発表だけで日本人310万人が亡くなった。指導者の素養が問われます。

(文責:代表理事 五百木孝行)

9月 12, 2021