「ブックマン」第11回                         『「憲法改正」の真実』 復古主義と新自由主義の奇妙な同居

樋口陽一 小林節著  集英社

 本書は、護憲派の泰斗(たいと)の樋口陽一氏と改憲派の重鎮の小林節氏による、「自民党憲法改正草案」の批判を通じた近代憲法論です。単なる改憲批判ではなく、近代憲法の大原則の立憲主義の歴史的な重要性の観点から、現在の「自民党憲法改正草案」を批判していることです。一言でいえば、近代憲法の立憲主義とは、権力者を縛る考え方ですが、「自民党憲法改正草案」は、権力者が国民を縛る考え方になっている点です。

例えば、同草案の第12条(国民の責務)は、「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力により、保持されなければならない。国民は、これを濫用してはならず、自由及び権利には責任及び義務が伴うことを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」という、いつの時代(慶安のお触書か)と疑う記述です。この考え方は「世界基準」「天賦人権説」からみても間違っていると両氏は指摘します。国民の権利を保障するのは、国民の責任及び義務ではなく、国の方がそれを尊重、擁護する責任があるわけです。基本的人権の定義をしっかりと噛みしめたいと思います。

9条問題や緊急事態条項などの重要な問題がありますが、それらを考える前に、碩学(せきがく)のお二人は、「なめんなよ」という精神を持ちなさいと檄を飛ばされています。この国の憲法制定権力者は、国民側にあることを自覚したいと思います。

(文責:代表理事 五百木孝行)

7月 30, 2023