横串の「地域共生社会」に思う

 9月23日、東京四谷にある上智大学で開催された日本社会福祉士会主催の「2018年度地域包括ケア全国実践研究集会」に参加してきました。テーマは「地域共生社会の実現に求められる地域包括ケアの推進と相談支援機関」です。集会は、シンポジュウムにおいて、高齢、障害、児童、生活困窮の各分野から現場で相談支援を行っているシンポジストの実践報告を基に議論が深められました。各報告とも、クライエントの問題や課題に対して、現在の縦割りを乗り越えてネットワークや社会資源の開発を行いながら問題解決に取り組んでいる報告に頭が下がる思いでした。
 現在、厚労省は、他人事を「我が事・丸ごと」として「地域生活課題」を解決していく「地域共生社会」作りの政策を進めています。簡単に言えば、「相談員が高齢者の問題だと思って自宅に行くと、そこには障害のある息子がいたり、シングㇽマザーの娘がいた。孫にも発達障害の疑いがある。ひきこもりの末娘もいた」。この世帯状況を複合課題のある「世帯丸ごと」の課題として、地域の身近な圏域で受け止めて解決していく仕組みを作ろうという考え方です。この場合は、地域包括の社会福祉士がニーズをキャッチしたので、地域包括をブランチの拠点にして、民生委員、診療所などが連携して解決にとりあえず当たることになります。行政も、各種の相談窓口を集約して、地域担当としてチームに参加して活動するものです。
 昔、約30年前、私が京都市の福祉事務所でケースワーカー(地区担当現業員)に従事していた頃は、福祉六法毎にケースワーカーが配置されていました。それを単法ワーカーと言いましたが、六法ワーカーの必要性について議論されていました。ゼネラルワーカーの主張です。確かにケースについて担当以外の課題が出ても、的確に対応できないうらみはありました。しかし、優秀な六法ワーカーを養成し配置し続けることは現実的ではないと思いました。それよりも単法ワーカーが連携してチームとして活動する方が現実的であると思いました。
 現在進められている「地域共生社会」のコンセプトは、六法ワーカーの考え方や社会状況とはかなり違いますが、一応整備されている各相談機関に対し、高齢、障害、児童母子、生活困窮を横串にして、コミュニティワーカー(ゼネラルソーシヤルワーカー)として活動することを求めるものです。「ゼネラル」という点で共通点があります。確かに縦割り問題は乗り越えなくてはならない問題ですが、一つ一つに大きな課題や解決しなくてはならい問題がある中で、実現可能な活動なのでしょうか。また地域にそのようなことを受容する余裕はあるのでしょうか。もっと国や地方自治体の責任や役割の実効性について議論を深めていかないと、看板倒れにならないでしょうか。地域からため息が聞こえてきます。(文責:代表理事 五百木孝行)

10月 1, 2018