『ブックマン』第2回  ―診療現場からの具体的提言― 

「老人の取扱説明書」平松 類著 SBクリエイティブ
 最初、この書名を見た時、正直、高齢者を物扱いの「迷惑物」として捉え、その対処方法のマニュアル本かと思いました。しかし、読んでいくと書名からくるイメージとはかなり違う内容だったのです。筆者は、眼科医で多くの高齢者を診察してきました。その豊富な診療経験を踏まえた診療現場からの提言だったのです。
 本書の中で、多くの人は、「老人ってキレやすいし、他人の意見を取り入れない」というイメージを持ち、その原因を「認知症でボケてきたこと」「カタブツでガンコになっている」「若者や社会に対して、ひがみがあること」と考えている方が多いと指摘します。しかし、筆者は、それは偏見だとします。高齢者の困った行動の原因となる真実は、認知や性格によるものというよりも、老化による体の変化だと指摘されます。医学的に説明がつき、そのことによってどう解決するかどう予防すべきか、そこから具体的な対応策が出てくるとします。
 例えば事例として「老人はなぜ赤信号でも平気で渡るのか」の場合です。原因は、「老人は瞼が下がってくるし、腰も曲がっているから、信号機がある上の方がよく見えない」「転びやすいので足元ばかり見て歩いている」「日本の信号は高齢者が歩くスピードで渡り切れないようにつくられている」と体の変化が主な原因とし、性格や認知とは一切関係ないとしています。老化による「老化の正体」を知ることが非常に重要だと。そこから適切な対応策が立てられると、本人も周囲もイライラがなくなるはずだと。この事例の場合は、対応策として①シルバーカーを使って歩行スピードを速める②瞼が下がらないように、目の簡単な運動をする(本書の中で紹介)ことで、かなり解決されるはずだと。
 本書は、この「老化の正体」を医学的背景から原因と解決策を、理想論ではなく具体的で手軽にできるものとして提言しています。高齢者や認知症の方と接する時の参考図書としてお勧めです。姉妹版として「認知症の取扱説明書」も発行されています。
                            (文責:代表理事 五百木孝行)

7月 16, 2018